
人と競って自分の存在意義や生きがいを見出そうとする大学生と、それを見守る幼馴染。
まったく性格が違う相容れない2人を中心に、平成の闇の部分が考察できる作品でした。
目次
この本の概要

タイトル | 死にがいを求めて生きるの |
著者 | 朝井 リョウ |
出版社 | 中央公論新社 |
出版日 | 2022/10/21 |
8人の作家が同じルールの中で描く「螺旋プロジェクト」
本作は平成の時代の対立が描かれています。
主な登場人物は「南水智也」と「堀北雄介」
対立の構図をテーマにした作品ながら2人はご近所同士で幼馴染の友達。
螺旋プロジェクトでは海族と山族に分かれた人物が登場するため
対立構造なのに友達関係とは!?
どんな展開になるのかが楽しみでした。
どんな人にオススメ?

- 平成はなんとなく生きづらい世の中と聞いて共感する方
- 朝井リョウさんの切り込んでくる感じが好きな方
- なんかちょっと自分に物足りなさを感じて焦ってしまう方
- 螺旋プロジェクトが気になっている方
私が朝井リョウさんの初めて読んだのは「何者」でした。
若者特有のもがき、価値観の縛りみたいなもが切れ味鋭く突き刺さる感じでした。
よくも内面をこんなに表現できるものかと、インパクトがありました。
本作では、
確かに(ほぼ現代ですが)平成の時代の闇の部分ってあったなと実感できました。
この本の所感
確かに現代(平成から今まで)はなんか、息苦しい

平成が象徴されたような
・はっきりしない世の中
・優越感(生きがい)を味わいたい
が織り交ざって、息苦しさを感じたところにリアリティがありました。
まず最初に本のタイトルに「死にがい」と入っていたので、
ちょっと暗い感じのワードから、朝井リョウさんがどんな切り込み方をしてくるのかを
警戒気味の期待感がありました。
本作は「対立」を共通テーマとして扱う螺旋プロジェクトの一つだったため、
「智也」と「雄介」のバチバチのバトルかと思ったのですが、
2人は幼馴染で、大学まで同じ学校に通う距離の近さがありました。
距離が近いからと言って、終始、喧嘩になる訳ではなく、でも近くにいる。
一緒にいるのに性格は全然違う。
正面衝突しない対立構造がいかにも現代(平成)のはっきりさせない世の中という感じでした。
タイトルにある「死にがい」という言葉がずっと気になっていて、
そのメッセージに気が付き始めたのは、「生きがい」というワードが出てくる場面からでした。
智也と雄介の同世代の大学生達が
他人より注目を浴びて、優越感に浸りたいから頑張るのが生きがい。
というところに自分にも言われているようでグサッと来ました。
作品の切れ味×螺旋プロジェクトを味わうために
この本を読もうと思ったキッカケは
・作者(朝井リョウさん)
・螺旋プロジェクト
この2つがキッカケで、
「何者」を読んだ時のセンセーショナルなイメージが残っていて、
螺旋プロジェクトに乗るとどんな感じになるかが気になったからでした。
どうしても、螺旋プロジェクトに引っ張られがちですが、
朝井リョウさんらしい切れ味鋭く、現代の闇に切り込んでくるのが良かったです。
直接は否定されていないけど、自分がダメだと言われている気がして自滅していく感覚

「いつも何かと戦っているように見せかけて
本当のものから逃げ続けているこの感じ、わかりますもん。」
このワードが腑に落ちました。
今回の対立構図の代表は
山族が雄介
海族が智也
雄介は何かと争って上に上がることで生きがいを感じるタイプ。
智也は冷静で、雄介とは線を引きながら、対立を避けている構図。
雄介に似たタイプが集まった「革命家の集い」は
他人よりも自分は頑張っている、注目を浴び優越感に浸ることに夢中になる若者同士。
負けたと思ったら逃げて、また別の何かで争おうとしたり、
もがいて本質を見失ったりしてしまう。
他人よりも優れたところにいることが生きがい。
この危機感あるメッセージが濃く描かれたところから、物語にどんどん入っていけました。
自滅からの爆発

本のあとがき・解説を読んで納得したのが
「自滅からの爆発」という言葉でした。
平成になって、誰かと比べなくて良い、オンリーワン
と言いながら、なぜが他人よりも自分が上にいることが、心の安定になっている。
“人間は自分の物差しだけでは自分自身を確認できるほど強くない。そもそも物差しだってそれ自体だけでこの世に存在することはできない。
(引用P546 解説)
(省略)
見知らぬ誰かに「お前は劣っている」と決めつけられる苦痛の代わりに、自ら自分自身に「あの人より劣っている」と言い聞かせる哀しみが続くという意味でもある”
息苦しくて自滅しそうだったことに気づけただけで、すこしスッキリしました。
人と比べてしまう自分に気づく
この本を読んで、
自分がどうしてこんなにもがいているのか。
息苦しいと感じているのか。
それが分かった気がします。
最近はウェルビーイングなどが流行り、
自分にベクトルを向けた考え方ができるようになってきて、少しは解放されてきましたが
確かに数年前は自分も結構、焦っていました。
螺旋プロジェクト
井坂幸太郎さんの呼びかけで集った8作者による競作企画。
共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をいっせいに楽しめる企画。
(ルール)
①「海族」VS.「山族」の対立を描く
②共通のキャラクターを登場させる
③共通シーンや象徴モチーフを出す
共通ルールのもと、作者の織り成す個性が堪能できるのは贅沢ですね。
(螺旋プロジェクト作品集)
・朝井リョウ:死にがいを求めて生きているの
・伊坂幸太郎:シーソーモンスター
・大森兄弟:ウナノハテノガタ
・薬丸岳:蒼色の大地
・吉田篤弘:天使も怪物も眠る夜
・天野純希:もののふの国
・乾ルカ:コイコワレ
・澤田瞳子:月人壮士